
こんにちは、弁護士の戸木です。
カリフォルニアで相続が発生した、あるいは将来に備えて遺言や相続の準備をしておきたいというご相談を多くいただきます。
「相続の時って、アメリカでは誰が財産を引き継ぐの?」
「日本と制度が違うと聞いたけど、具体的にどういうこと?」
といった疑問や悩みを抱える方は少なくありません。
本記事では、カリフォルニア州での相続制度の基本として、相続人の範囲・財産の考え方・遺言やトラストの位置付けを中心に、日本との違いを交えながら解説します。
目次
相続人の範囲|カリフォルニア州と日本の違い

相続人の範囲ですが、日本でもカリフォルニア州でも、配偶者がいる場合は、配偶者は必ず相続人になります。
日本では、配偶者と並んで相続人になる範囲として以下のような順位が定められています。
- 1.直系卑属(子・孫など)
- 2.直系尊属(父母・祖父母など)
- 3.兄弟姉妹(先に亡くなっている兄弟姉妹がいれば甥姪まで)
一方、カリフォルニア州では配偶者がいる場合、 並んで相続人になる範囲は次の通りです。
- 直系卑属(子・孫など)
- 父母
- 父母の直系卑属(兄弟姉妹・甥姪など)
さらに、配偶者がいない場合には、
- 祖父母・祖父母の直系卑属(従兄弟姉妹など)
- 先に亡くなった配偶者の直系卑属
- 最も近い血族
- 先に亡くなった配偶者の父母、当該父母の直系卑属(配偶者の連れ子等)
上記まで相続人の範囲に含まれます。
つまり、日本よりもかなり広い範囲で血縁・姻族が相続権を持ちうるのが特徴です。
※遺言やトラストを作っていない場合に、実際どのような相続分・手続になるのかは「日本とカリフォルニア州の無遺言相続の対比」で詳しく解説しています。
共有財産と特有財産|財産の考え方の基本

カリフォルニア州では、相続にあたってまず財産を共有財産(Community Property)と特有財産(Separate Property)に分けるところから始まります。
この区分は、日本では主に離婚の場面で登場しますが、カリフォルニアでは相続でも非常に重要な考え方です。
共有財産(Community Property)
婚姻中に築いた財産は、原則として夫婦の共有財産とされます。この場合、財産の半分は常に配偶者のものとみなされます。そのため、被相続人が亡くなった時点で、共有財産の半分は自動的に残された配偶者に帰属します。
さらに残りの半分についても、相続を通じて配偶者が取得します。
結果として、共有財産は原則として全て配偶者が取得する形になります。
日本では、配偶者と子がいる場合でも配偶者の取り分は全体の半分に限られるため、この点がカリフォルニア州との大きな違いです。
特有財産(Separate Property)
婚姻前から保有していた財産や、相続・贈与などで得た財産は特有財産として扱われます。これらは婚姻関係とは独立して取得した財産であり、配偶者と子・親などの相続人が一定の割合で分割します。
割合は組み合わせによって異なりますが、概ね配偶者が半分または3分の1を取得し、残りを他の相続人が分けるという形です。
このように、カリフォルニア州の相続制度は「婚姻で築いた財産はまず配偶者のもの」と整理されており、日本よりも筋の通った仕組みだと感じます。
遺言やトラストを活用する理由

こうした複雑な相続割合を、実際の手続で細かく計算する場面はそれほど多くありません。
というのも、カリフォルニア州では多くの方が生前に遺言やトラストを作成しており、それに従って遺産が分けられるからです。
カリフォルニア州で遺言やトラストが広く利用されている背景には、次のような制度的な事情があります。
戸籍制度が存在しない
日本のように「誰が家族か」を証明する公的書類がないため、誰が相続人かを客観的に確定することが容易ではありません。実際、相続人を調査する専門業者(探偵のような存在)がいるほどです。
プロベート(Probate)制度がある
誰かが亡くなった場合には、裁判所での公開手続を通じて相続人を確認します。新聞やウェブサイトなどで公告が行われ、相続人になり得る人に「名乗りを上げる機会」を与える仕組みです。
これは相続人の取りこぼしを防ぐ目的がありますが、同時に遺産の内容や相続関係が一般公開されてしまうというデメリットがあります。
遺留分制度が存在しない
日本では、配偶者や子どもに最低限保障された「遺留分」がありますが、カリフォルニア州にはその制度がありません。意図的に配偶者や子を遺言から外すことも可能で、遺言者の遺志が最優先される仕組みになっています。
このように、カリフォルニア州では「相続の手続が公開されやすい」「家族関係を証明しにくい」という事情から、プライバシーを守り、自分の意思を確実に反映させる手段として、遺言やトラストを活用する人が非常に多いのです。
また、トラストや受益者指定制度を活用すれば、プロベートの対象となる財産を最小限に抑えることができます。
例えば、生命保険や投資口座、銀行口座などに「受取人(Beneficiary)」を指定しておくことで、
相続発生後に裁判所の手続を経ずに財産を受け取ることが可能です。
- 補足
- プロベートは、相続人を取りこぼさないための制度として重要な役割を果たしています。しかし、時間や費用がかかるうえ、個人の財産情報が公開されてしまうため、できるだけ避けたいと考える方が多いのが現実です。プロベートをいかに回避するか、その方法については『カリフォルニア州における相続について②|プロベートを回避する方法』で解説しております。
カリフォルニア州の相続に関するその他の制度について
本記事では、相続人や共有財産など相続の基本的な仕組みを紹介しました。
カリフォルニア州の相続をより深く理解するためには、プロベートの実務・税務・そして無遺言相続(Intestate succession)まで押さえておくことが重要です。
以下のコラムでは、それぞれのテーマを詳しく解説しています。
・カリフォルニア州における相続について②|プロベートを回避する方法
トラストや受取人指定制度を活用し、プロベートを避けて財産を円滑に引き継ぐ実務を解説しています。
・カリフォルニア州における相続について③|相続税とエステートプランニング
カリフォルニア州の遺産税と日本の相続税の違い、POA(委任状)やAdvance Health Care Directive(健康に関する事前指示書)、HIPAA Authorization(健康情報の開示同意書)の作成といったエステートプランニングについて解説しています。
・ 日本とカリフォルニア州の無遺言相続の対比
遺言やトラストを作成していない場合に、両国でどのような相続・手続き上の差が生じるのかを比較しています。
- ポイント
- 相続の仕組みを段階的に理解しておくことで、 事前準備・相続実務・税務・そして無遺言時の対応まで一貫して整理できます。
弁護士に相談するメリット

カリフォルニア州の相続制度は、日本の仕組みとは異なる部分が多く、相続人の範囲・財産の分類・遺言書の形式などを正確に理解しておく必要があります。
当事務所では、次のようなサポートを行っています。
- エステートプランニング(遺言・トラスト・POA)
- 日本法に基づく公正証書遺言の作成のサポート
- プロベート(Probate)、信託管理(Trust Administration)手続等の裁判手続の対応
- 少額遺産手続(Small Estate Affidavit)のサポート
- 相続争い(遺言無効確認等)の交渉
- 日米にまたがる相続に関する一般的なアドバイス
当事務所の強み
- カリフォルニア州法と日本法双方の知識を活かした助言
- 日本語での丁寧な説明と迅速な手続きサポート
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まとめ:カリフォルニア州で相続を円滑に進めるために
この記事では、カリフォルニア州の相続制度における相続人の範囲や、財産の考え方(共有財産・特有財産の区別)、そして遺言やトラストの位置づけを中心に、日本との違いを解説しました。
カリフォルニア州の相続制度は、
- 相続人の範囲が広い
- 共有財産と特有財産の区別が重要
- 遺留分制度がなく、遺言内容が最優先される
という点が、日本との大きな違いです。
相続制度の考え方そのものが日本とは異なるため、早い段階で仕組みを理解しておくことが重要といえます。
※このコラムは一般的な情報提供を目的としており、具体的な法的アドバイスではありません。
個別の事案については必ず弁護士にご相談ください。
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