カリフォルニア州における相続について②

※このコラムはMSLGオンラインマガジン第10回として投稿されたものです。

 

皆様こんにちは、弁護士の戸木です。
 
アメリカでは映画「バービー」が大ヒットしていますが、ようやくこちらでも「The Fist Slam Dunk」が公開され、早速見に行ってきました。幼少期に読んでいた大好きな漫画の1つということもあり、映画が始まった瞬間から涙が込み上げてしまいました。ただ、スラムダンクの前提知識がないと感動できない部分も多いですし、そもそもバスケはアメリカのお家芸ですから、アメリカで広くヒットする映画にはならなさそうですね。こちらで有名な漫画・アニメといえばドラゴンボールやNARUTOで、異世界の話だったり、The Japan(外国人に映る日本)という設定がウケるようです。
 
さて、本題に戻り、前回に引き続いて相続に関するお話をしたいと思います。
 
誰かが亡くなった場合にはプロベートの手続を経なければならず、その過程で、相続に関する情報が公開されてしまうことについては、前回ご説明させていただきました。カリフォルニア州では、遺言が残されているか否かに関係なく、このプロベートの手続を取らなければなりません。つまり、相続対策で遺言を残していても、プロベートを回避できないということなのです。
 
プロベートは「遺言検認手続」と訳されることが多いですが、日本における検認とは大きく違います。日本では、自筆で書かれた遺言(公正証書の形で作られていない遺言)について、亡くなった人が、民法が定める形式に従って遺言を残したか否かを確認するだけの手続で、どのような遺産が残されているのか、その遺産を具体的にどのように分けるのかという問題までは立ち入りません。
カリフォルニア州では、遺言がある場合であっても、遺言がない場合であっても、いずれにしてもプロベートは必要になり、どのような財産が遺産に入るのか、それがどのように分配されるのかということまで、家庭裁判所が関与して監督されることになります。
前回ご説明したようにプロベートは情報が公開される他、時間もかかりますので、いかにこのプロベート手続を回避するかというのが、相続対策の1つの達成目標になるのです。
 
まず、オーソドックスな方法として、トラスト(信託)を用意する方法が挙げられます。生前にトラストを組成しておき、そのトラストの名義に財産を移しておき、トラストの中で受益者(Beneficiary)を指定することで、プロベート手続を経ずに遺産を渡すことが可能になります。
トラストや信託というと馴染みにくいかもしれませんが、例えていうとすれば、自分が100%株主かつ代表取締役の会社を立ち上げ、そこに財産を移しておくということです。名義は個人と会社で異なるものの、実質的な持ち主は変わらず自分なので、名義を移した後も自分で財産を自由に管理・処分することができます。名義を変えるというのは仰々しくありますが、結局は犠牲的な話で、非常に簡単にできてしまいます。
 
とはいえ、トラストを組成してから亡くなるまでに、想定していなかった新たな財産を取得することはあり得ます。トラストに名義を移せていなかった財産をカバーするために、「死亡したときに所有・保有していた財産を、全てトラスト名義にする。」という内容の遺言を作っておくのが一般的です。
 
これがトラストと遺言を組み合わせたオーソドックスな対策で、当事務所が依頼を受けたときには、必ずこの方法をご案内します。
 
次に、トラストを使うわけではないプロベート回避方法をいくつかご紹介したいと思います。
 
1つ目は、日本でもお馴染みの生命保険を使用する方法です。生命保険では受取人(トラストでいう受益者と同様です。)を指定することができるので、相続発生後、受取人が、プロベート等の手続なく財産を受け取ることができます。
 
2つ目として、銀行口座等に受取人を指定しておく方法もあります。アメリカでは、生命保険同様、受取人を指定することができる銀行口座の種類というものもあります)があり、それを使用することで、プロベート手続を経ることなく、財産を受け取ることができます。例えば、Joint Account(共同口座)を使うと、共同名義人の1人が亡くなると、当然に残りの共同名義人の単独口座になります。また、Payable-on-Death (POD)(死亡時受取人指定口座。主に銀行口座で使います。)やTransfer-on-Death (TOD) (死亡時譲渡口座。主に株式や証券の口座で使います。)というものがあり、これを使用して受取人を指定しておくことで、プロベートの手続は不要になります。
なお、JointやTODの制度は、不動産や自動車に関しても用意されており、それらの財産についても受取人を指定しておくことが可能になっています。
 
ここまで来ると、「わざわざトラストを作らなくても、JointやTODを使った方が簡単で、弁護士費用も要らないので安上がりじゃないか。」と思われる方もいるかもしれません。
確かに、単純に受取人を指定するだけならこの方法で足りるのですが、トラストは、受取人の範囲や受取方法を細かく定めることができる点に大きなメリットがあります。例えば、お孫さんに遺産を残したいと考えたとします。自分が亡くなったときにお孫さんがまだ未成年だったとしたら、成人していてもまだ大学生で遊び盛りだったとしたら、遺産をいっぺんに渡してしまって安心でしょうか。私が20歳のときに急に大きな財産を手にしていたら、後先考えずに車や遊びに使い果たしてしまった自信があります(笑)。もしこのような不安があるような場合には、トラストで、次のような条件を設定することができます。

  • 孫が25歳になるまでは遺産はキープしておき、教育又は医療の目的でのみ、必要金額のみ使用できる
  • 孫が25歳になった時は、遺産の半分を受け取ることができる
  • 孫が30歳になった時、又は結婚したときは、遺産の残り半分を受け取ることができる
  • 孫が全ての遺産を受け取る前に死亡したときは、孫の子が、同じ条件の下に受け取ることができる

 
このように、遺産を受け取るための条件や、受け取る権利を持つ人に順番を付けたりすることができますので、思い通りの設計をすることが可能なのです。
 
次に、少し毛色が違いますが、遺言であっても、配偶者に全て渡すという遺言にしておくと、Spouse  Property Petition(配偶者財産申立て)という、非常に簡易なプロベート手続で済ませることが可能になっています。この場合には、手続の過程で遺産の内容等の情報が開示されることもありません。
 
さらに違う観点ですが、遺産が一定額を下回る場合で、かつ法定相続人が全員同意をすれば、遺言やトラストがなくても、Small  Estate Affidavit(少額遺産宣誓書)を用意するだけで足り、プロベート手続は不要になります。基準となる一定額は毎年変わるのですが、2022年4月以降は184,500ドルとされています(2022年4月の前は166,250ドルでしたので、インフレの影響か、だんだん金額は上昇傾向にあります)。
なお、法定相続人が全員同意することが前提になっていますので、相続人間で意見に相違があると使えない制度であることにはご留意ください。
 
日本では、戸籍制度がある関係で、相続の際、情報を公開せずとも相続人間で遺産を分けて行くことが容易になっています。アメリカでは、この前提が大きく違いますし、前回ご説明したように遺留分の制度もありませんので、プロベート回避が相続対策の1つの目玉になるのです。
 
さて、続いて相続税のお話をしましょう、と言いたいところなのですが、ここまでで非常に長くなってしまいましたので、また次の機会にさせていただければと思います。それでは!

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