カリフォルニア州における相続について③

皆さまこんにちは。弁護士の戸木です。

 

今回は、相続税の話からスタートします。相続税も、日本とカリフォルニア州では大きく異なります。

 

まずは基礎控除額です。簡易化しますが、日本では、残された遺産が、基礎控除3000万円+法定相続人の人数x 600万円が基礎控除とされており、課税対象となる遺産がその額に収まっていれば相続税は掛かりません。一方、カリフォルニア州では、遺産税が掛からない基礎控除が12.92ミリオンドル(約18億円)(2023年現在)とされています。桁が違いますね。

相続税を支払わなければならない人の割合が、日本では10%程度と言われるのに対して、カリフォルニア州では0.1%と言われています。対象者の割合に大きな隔たりがあるのは、上記の控除枠の差が大きく影響しているのだろうと思います。

さて、次に税金の対象です。日本では「相続」税と言われることから分かるように、「遺産を受け取る人」が支払う税金として整理されています。一方、カリフォルニア州では「遺産」税(Estate Tax)とされており、「残された遺産」に対して課税がなされます。
カリフォルニア州では、「遺産」に対して税金を掛けるので、基本的にカリフォルニア州内にある財産を課税対象と捉えています。そのため、財産が日本にある場合には、原則としてカリフォルニア州では遺産税は発生しません。
一方、日本は「相続」(遺産を受け取ること)に対して税金を掛けており、財産が国外にある場合であっても、日本国籍を有する方や日本に居住する方等、一定の範囲の方は日本に相続税を納めなければなりません。

 

被相続人と相続人の国籍や居住地、また財産の所在地が日米をまたぐような場合には、特に日本での相続税問題も複雑になります(財産の名義変更・処分・管理については言わずもがなです)ので、是非生前に現状を把握して対策をしておきたいところです。

 

日本では、相続対策というと死亡時の財産管理・分配がメイントピックになりますが、米国では、生前の財産及び健康の管理も重視されています。日本では、財産管理については委任状によって信頼できる人に委任ができるものの、健康管理について委任するのは一般的ではありません。委任状や任意後見を使用することで信頼できる人を指定しておけるとはいえ、委任状は本人が判断能力を失ったときに執行しますし、後見制度は必ず家庭裁判所が関与することになり、敬遠されているのが実情でしょう。

 

米国では、Power of Attorney(委任状。通称「POA」)を作ることで、自らの財産及び健康の管理を第三者に委任することができ、エステートプランニングの一環でPOAを作るのは一般的になっています。委任する範囲も自由に決められますし(不動産の売却については委任の対象外とする等)、判断能力を失ったとしてもPOAの効力が失われないようにできますので、使い勝手が非常に良いといえます。もっとも、何か問題が発生しない限りは裁判所が関与しないので、POAが相続人でもある場合に、自らが相続する財産を維持するために本人のために使用しないなどの問題事案も発生しやすい状況にあるのは確かです。POAを決めるときには、真に信頼して良い人なのかどうかを熟考するとともに、必要であればPOAを2人選んで牽制し合う状況を作るなどの工夫も検討しましょう。

 

健康面でいうと、POAの他にAdvance Health Care Directive(健康に関する事前指示書)やHIPAA Authorization(健康情報の開示同意書)を作ることも通例です。AHCDは、日本でいう「尊属死宣言」のような位置付けにありますが、延命治療に関する希望はもちろん、命に関わらない治療に関する希望や、解剖や臓器提供の可否についても盛り込むことができます。HIPAAというのは医療情報の管理に関する法律で、本人以外への情報開示を厳しく制限していることから、その情報開示の同意書であるAuthorizationがあることにより、POAが医療情報を取得することができます。

 

カリフォルニア州のProbate Codeには、POAやAdvance Health Care Directiveに盛り込むべき条項についての定めがあります。アメリカは判例法・コモンローを起源とする法体系ではありますが、一方で制定法も充実しています。特にエステートプランニングに関する分野については日本よりも細かく成文法が定められている点は、個人的には面白く感じています。

 

以上の全3回で、エステートプランニングに関する概要をまとめて参りました。財産や相続人の所在が日米をまたぐと色々と面倒な論点が発生してきます。相続前に対策をしておくことが肝要ですので、是非詳しい専門家にご相談ください。

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